【九州大学】温泉⼊浴が腸内細菌叢に与える影響(論文掲載・発表日:2024 年1⽉28日)

#腸内細菌

本研究は、伝統的に異なる効能が信じられてきた日本の温泉(泉質)が、健康な人々の腸内細菌叢に与える影響を科学的に検証し、温泉を中心とした新しい健康増進体験を提案することを目的としている。
### 1. 研究の背景・動機・目的
温泉の持つ温熱効果やリラックス効果に加え、その「生理学的効果」、特に「腸内環境への作用」に着目した。日本では古来より泉質ごとに異なる効能が伝承されてきたが、腸内細菌叢への影響は科学的に解明されていなかった。本研究では、多様な泉質を有する大分県別府市の温泉に着目し、温泉の化学的特性の違いが腸内微生物叢に特異的な影響を及ぼすかを実証することを動機とした。
### 2. 研究手法・実験設計・データ収集方法
2021年6月から2022年7月にかけて、九州在住の健康な日本人成人136名(最終分析127名)を対象に実施した。参加者は、別府温泉の4種の泉質(単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫黄泉)から施設を選択し、**7日間連続で毎日最低20分間**入浴した。食事や生活習慣は通常通り維持させ、入浴前後の糞便サンプルを採取。**16S rRNAシーケンシング**を用いて腸内細菌叢の相対存在量を分析した。統計解析にはWilcoxon matched-pairs signed rank testを用い、多重比較補正としてFDR法を適用した。
### 3. 主要な結果・発見・数値データ
泉質ごとの腸内細菌叢への作用を分析した結果、**7種類の細菌**の相対存在量が温泉入浴後に有意に増加した。特に注目すべき結果として、泉質ごとに以下の特徴的な作用が確認された。最も顕著な変化は**炭酸水素塩泉**入浴群で観察され、有益性が報告されている*Bifidobacterium bifidum*が**+2.796%**と大幅に増加した(q < 0.0365)。この細菌は便秘改善やグルコース耐性向上との関連が期待される。**単純泉**では*Parabacteroides*(+0.701%)と*Oscillibacter*(+0.141%)が増加し、腸内環境の多様性向上やバランス調整への寄与が示唆された。**硫黄泉**では*Alistipes*(+1.486%)と*Ruminococcus2*(+0.866%)が増加し、代謝機能や食物繊維の分解促進への関与が考えられる。一方、塩化物泉では有意な変化を示す細菌は特定されなかった。
### 4. 考察・議論・含意
別府温泉は泉質が豊かで、腸内細菌叢への作用が泉質ごとに異なることが実証された。特に*Bifidobacterium bifidum*の増加は、便秘改善やグルコース耐性向上といった健康効果の可能性を示唆する。この分析結果に基づき、各温泉施設の泉質特性に合わせた「温泉を中心にした腸活プログラム」の開発が期待される。例えば、炭酸水素塩泉では腸内環境改善を目指す滞在プランを、硫黄泉では代謝促進を意識した食事との組み合わせを推奨するなど、入浴法と連動したパーソナライズされた健康増進提案が可能となった。なお、増加した細菌群にはポジティブ・ネガティブ両面の報告があり、温泉の化学成分と温熱効果が複合的に作用している可能性が示唆された。
### 5. 結論・今後の研究方向性
本研究により、**7日間の連続温泉入浴が腸内細菌叢の構成を変化させること**、特に**炭酸水素塩泉が*Bifidobacterium bifidum*を増加させること**が初めて実証された。今後は、この科学的知見を活かし、非介入群やサウナ対照群を用いた厳密な実験デザイン、および短鎖脂肪酸などの機能的代謝物評価を通じて、具体的な健康効果のメカニズム解明が求められる。さらに、新しいヘルスツーリズム戦略や滞在型健康プランの企画開発への展開が期待される。
### 6. 論文の学術的・実践的意義
本研究は、温泉の効能を伝統的・経験的な評価から脱却させ、現代のマイクロバイオーム科学(16S rRNAシーケンシング)を用いて客観的に評価・体系化した点に学術的意義がある。温泉入浴と腸内細菌叢の関連を明らかにした世界初の研究として、新規性が高い。実践的には、温泉利用者に泉質ごとの具体的な腸内環境への効果を提示し、入浴プログラムと食事・生活習慣を組み合わせた包括的な健康体験を提案できる点で、**ヘルスツーリズム振興および温泉地の健康サービス開発**に大きく貢献する。

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論文内容(テキスト)